ハタフェスがあったから │ Watanabe Textile

By 2020年12月17日12月 18th, 2020COLUMN

ハタオリマチフェスティバルがはじまってから今年で5年。台風の中止を除いて3回開催されてきました。その間には夏祭りがはじまり、クリスマスがはじまり、と拡張を続けてきました。
5年目を迎える今、事務局では、ハタフェスがあったからこそ生まれた物語を集めてまとめていくことにしました。題して「ハタフェスがあったから」。

ハタフェスがあったから|Watanabe Textile

ハタフェスでは、地元富士吉田やお隣、西桂の個性豊かな機屋さんたちも初年度から参加して、毎年独自のプロダクツや生地などの見せ方も自分たちで考えながら販売や展示をしてくれています。
機屋さんたちの通常の売り先は問屋さんやブランドさんなど、いわゆる卸がメイン。ハタフェスは地元の機屋さんには今まであまりなかった、個人のお客さん(その中にもちろんデザイナーさんやテキスタイル関係などの人も含まれますが)に自分たちの製品を見てもらう場として機能するようになりました。お客さんもハタフェスに来て、こんなにバラエティ豊かな織物プロダクトが富士吉田にあるということを知って、毎年楽しみにしてくれています。
今回紹介するのは、ハタフェス参加の機屋さんの中でもオリジナルプロダクツや展示の世界観で注目を集め、ハタフェスで出会ったお客さんとその後も多様な仕事につながっていったという「Watanabe Textile」の渡辺竜康さん。
渡辺さんは1948年の創業の「渡邊織物」の三代目。建築、写真、アートに触れながら、家業の織物に携わるようになりました。

渡辺さんが最初にハタフェスに参加したのは、2017年の第2回目のハタフェスから。
渡邊織物としては長年スーツの裏地の生地を、受注を受けて織ってきました。お客さんからの注文で技術的にも高いことを要求されることもあり、それ自体は渡辺さんもやりがいにはなっていましたが、渡辺さん自身の中から湧き出るものづくりへの気持ちが次第に大きくなっていきました。
その思いが現実になり、オリジナルの生地やプロダクトが生まれ始めた頃と、ハタフェスの始りがリンクします。
現代的なデザイン、そしてテクスチャーを追求したオリジナルの生地やプロダクトの開発を、通常の受注の仕事もこなしながら寝る間も惜しんで形にしていきました。

長年の構想がついに実現し、「Watanabe Textile」として渡辺さん自身のブランドが産まれました。
2回目のハタフェスは流しの洋裁人とのコラボ出店、3回目やハタオリマチのクリスマスでは独自の建築や写真の表現もあわせた空間を作り上げてくれました。

ハタフェスで多くの人が目を留め、手に取ってくれるという渡辺さんが生地から作る大判のブランケット。
アルパカ、ウール、キュプラできめ細かく織られ、フワフワして触ってみるとほんとに気持ちよくて暖かいのです。キュプラは吸湿性に優れているので、アルパカウールの暖かさにさらにムレを防止する効果が。触ってみるとほんとうにその手触りの良さ、肌に触れたときの気持ち良さに気づきます。
渡辺さんは当初、いいものを作ったけれどそこそこ値段もするものなので、そこまでは売れないだろうと思っていたそう。
しかし、蓋を開けてみると多くの人が渡辺さんの販売スペースに足を止めて、ストールやブランケット、マフラーなど実際に手にとってその良さを確かめるように購入してくれました。ほとんどが渡辺さん自身のことは、その時知らない人ばかりだったそう。

そんなハタフェスでのお客さんとの出会いが、その後の渡辺さんの仕事にも繋がっていきます。
隣町でコテージを経営しているお客さんは、製品のオーダーをその後も続けてくれたり、写真の仕事の依頼やコテージでの写真の展示、ハーブガーデンの設計デザインの仕事も渡辺さんにオファーしました。それは織物だけはなく、渡辺さんの感性に共感をしてくれたところが大きいのかもしれません。
他にもデザイナーさんのお客さんとの縁が生まれたり、公共施設で渡辺さんの生地を使いたいと言う人も現れました。渡辺さん自身の表現から多くの人との繋がりが生まれていきました。
渡辺さん曰く「ハタフェスのお客さんは何かいいものと出会いたいという目的の人や、ものづくりに目が利く人が多い印象です。一般のお客さんだけど話してみるとデザイナーさんだったりとか。見てもらう側としてはとても嬉しいですね」。

最近は、工場内にアトリエを兼ねたショップスペースも完成しました。バッグやブランケットなど、Watanabe Textileのオリジナルプロダクトを直接販売しています。
自らつくったものを自らが売るということは、お客さんの反応もダイレクトに返ってきます。渡辺さんはそんな生の声や実際に会って話すことをとても大事にしています。
アポイント制のアトリエには、方々から噂を聞きつけたデザイナーやファッションブランドの人たちがわざわざ山梨まで足を運んでくれることも増えて来たそう。渡辺さんが自らの制作の源となる日々の暮らしを自身の写真表現で切り取ったインスタグラムも、ものづくりの視点や姿勢を垣間見れるツールとなり、人を惹きつける呼び水になっているのかもしれません。(https://www.instagram.com/tatsuyasu_watanabe
Watanabe Textileでは、目に見える範囲で、自分の生地がどうなるかを確かめるように依頼に応え生地を作り上げます。自分の表現を曲げずに作り出すことで、出来上がったものを見て、またそれを受け止めてくれる人が現れてくれるという循環が生まれ始めています。

渡辺さんは時間ができると自然の中に一人身を置くことが多いそう。近くに雄大な自然があるからこそ、ふらっと出かけて気持ちをリセットしたり切り替えたりしています。
朝日が水面にさす光、風の揺らぎや空気の冷たさなど、何回同じところに来ても同じ見え方がない自然の世界。
Watanabe Textileの生地を見ていると、そんな自然のエッセンスが取り込まれているようにも感じます。
渡辺さんにそのことを伝えると「意識はしてないけれど、自分が自然の中に身を置いて見たものや感じた心地よさみたいなものが、無意識のうちに表現されて凝縮しているんだなというのを出来上がった生地を見て思うことがあります。なので、自分の生地を見てそう感じてもらうのは嬉しいです」といつかの風景を思い出すかのように答えてくれました。

photo by Tatsuyasu Watanabe

これからもさらにハタオリマチと共に進化を続ける「Watanabe Textile」。来年のハタフェスではどういった空間が演出されるのかこれから楽しみです。